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コラム NHK大河ドラマ天地人 秀吉の唐入り

 秀吉の批評本を数多く読むと、前半から中盤にかけてベタ褒めばかりが長々と続いて、秀吉のことを散々持ち上げるだけ持ち上げておいて、後半の外征の前後あたりでドカリと蹴落とし、痛烈な誹謗中傷に豹変する。
 秀吉はボケていた。長年の疲労でモウロクした。心労がたたって発狂した。異常な誇大妄想にとりつかれた。領土欲の権化になった等々、賞賛が一転して批難に早変わりする。

これと同じ現象が、日清・日露戦争と大東亜戦争とを比較した批評本にある。
明治・大正の政治家や軍人たちは実に優秀だったと持ち上げてから、昭和初期の社会的優位者たちはダメだった。先の読めない人たちだった。身のほど知らずであった等々、こちらも痛烈な批難に大暗転する。

確かに、秀吉の唐入りも大東亜戦争も戦略的な暴挙に陥ったことは事実であろう。両方ともに結果が散々たるありさまだったのだから。
しかし、こんな批評であれば誰にでもできる。結果論からいえば、何とでも言えるはずだ。

 結果論から見た逆算的な視点は歴史を検証する上で必要な作業ではあるが、我々が歴史を考察する上でもっとも重要なことは、「何をしようと考えていたのか?」「どのように対処するつもりだったのか?」「取り巻いている情勢はどうだったのか?」「なぜ成功し、なぜ失敗したのか?」「失敗したのであれば、どうすれば成功したか?」といった歴史を教訓として深く学び取り、そして広い視野をもって史料を詳しく検証し、その経緯を深く考察することであろう。
 成功を褒めちぎり、失敗をけなすことばかりに終始するようではお粗末にすぎる。

 私見になるが、日清・日露戦争ほど身のほど知らずな戦争はない。これこそ、とんでもない戦略的な暴挙だ。
 相手は両国ともに超大国で、生産力・軍事力・兵力ともにずばぬけて絶大であった。
 一方の日本は全力戦の消耗戦、国家財政はパンク寸前、相手両国は一方面軍の局地戦でしかなかったのである。
しかし、相手両国の内政事情はガタガタ、アメリカ・イギリスは親日派、日本は停戦・終戦の手助け役にも恵まれていたのである。日本の勝利は当時の国際情勢が幸いしたからであって、戦略的な見地に立って考えれみれば日清・日露戦争は常軌を逸した暴挙であったし、当時の日本の政治家や軍人たちが優秀だったと断定づける論法も性急にすぎるであろう。
特に日露戦争などは、必ず勝てると確信していたのは軍の参謀本部だけで、当時の日本人の多くが敗戦を予感し、政治家・軍人たちも勝利に懐疑的だったのである。参謀本部の図上演習においても、戦争に踏み切れるだけの良い結果が出ていない。予想される厳しい局面において奇手機略を用いての作戦計画だったのである。

 
 さて、前置きが長くなって恐縮だが、秀吉は明国を征服するばかりでなく、東アジア全体を統括して支配するという遠大な戦略構想を持っていたようである。秀吉は日本を任せる武将、朝鮮半島を支配させる武将を具体的に選定し、北京に天皇家を招いて大陸を統治し、秀吉自らは寧波(ニンポー)に居を構えて東アジア全体を統括して総覧するという政治的な目標があったのである。これは、最前線の肥前名護屋城で指揮を執る秀吉が京都の羽柴秀次(秀吉の甥)に宛てた手紙に記されているので明らかだ。
また、朝鮮半島は明国に入る為の通り道だったのであり、朝鮮は戦略目標ではなくて単なる戦術的な目標にすぎなかった。

 だが、秀吉は緒戦の朝鮮半島で惨敗した。結果的に壮大な作戦計画はすぐさま頓挫したのである。ゆえに、後世の批評家たちから痛烈な批難を浴びることになった。

 失敗の原因は山ほどあるが、最たる要因は敵情認識の甘さであろう。
 秀吉は朝鮮のことを対馬の属国ぐらいにしか考えていなかった節があるし、明国の兵力に関しても無頓着もいいところだし、補給路の確保もいいかげんだし、生命線である制海権までも敵軍に奪われている。確かにダラシナイ戦いぶりで、
「本当に、本気でやる気があったのか?」と思えるし、「秀吉はボケていたのでは?」と感じさせるテイタラクぶりである。ドラマの冒頭で紹介していた通り、秀吉の動員可能兵力は二十万以上、予備兵力を入れたら途方もない大軍勢なのだ。さらに、最近の研究によれば日本は当時、世界有数の鉄砲保有国だったのである。この時代の日本は恐ろしいスピードで鉄砲の技術が発達し、鉄砲の保有量も数万を数えていのだ。当時の日本は強力な軍事大国であったといってよい。

ところが、大陸の情勢に精通する小西行長などは、とうとう秀吉につき合いきれなくなって、朝鮮半島での進軍途上で明軍に利敵し、逆に内兜を見透かされて大損害を被り、そのあおりを受けた日本軍将兵らもチリジリになって窮地に追い込まれたりしている。
また、石田三成や小西行長は秀吉にいいかげんな情報を伝えて騙すことすらしていたことは、この時代に詳しい方々であればすべてご存知なことであろう。豊臣家の主要なメンバーたちは和平を望んでいたのであろうし、諸大名らも厭戦気分であったに違いない。ドラマでは兼続がヒューマニズムに訴えて石田三成に外征の件で喰ってかかる場面が放映されたが、あれは現代版といえるだろう、諸所を転戦して軍勢を率いて散々人を斬殺しておいて今さらヒューマニズムもないだろう。当時の侍大将の姿にはほど遠いところであろう。

 
 さて、ここで視点を変えて国際情勢に着目すると秀吉の近世的で偉大な志しが見えてくる。

 当時の日本の裏側では、スペイン・ポルトガルの国王であるフェリペ二世が大帝国を誇って世界に君臨していた。
特筆すべきことは、フェリペ二世と秀吉は何度となく音信を結び、書簡を交わしたり贈答品のやり取りを行なっていたことである。さらに秀吉はフェリペ二世に宛てた手紙の中で、
「貴殿とは対等である。」と言い張っている。
これは、日本の枠組みを飛び越えて世界にはばたこうとする秀吉の挑戦とも取れ、非常に近世的な発想であったともいえるだろう。当時のヨーロッパ諸国は大航海時代の幕開け、飽くなき膨張主義の全盛期だったのだから。
 したがって、秀吉の思考力はその時代の最先端を走っていたともいえるのだ。


 
 ちなみに、大陸の明国は秀吉の病没後、わずか四十数年後には小国の金(清)に滅ぼされている。

 徳川政権下の家光の時代に、明国の急使が日本にやってきて救援を求めてきたが、保守的な幕府から全然相手にされず、アッサリと断わられている。


著者HP http://7daiyamonde.blog60.fc2.com/
メールアドレス hokenpuro@yahoo.co.jp

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/08/04 16:07】 | 未分類
不如帰 ~戦国武将の幻影~


Ⅰ<覇王編>~逆賊 織田信長を討て!~  Ⅱ<争覇編>~織田家簒奪!秀吉の野望~

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