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コラム NHK大河ドラマ天地人 兼続の政略
 


 戦国時代の当時は、江戸時代のような儒教に基づいた君臣関係はない。比較的に自由で弾力性があり、主人は家来を三年ぐらい使ってみて見込みが無ければ平気で暇を出すし、家来の方もしばらく仕えてみて頼りにならない主人であればサッサと立ち去ってしまうのである。
 戦国時代は君臣ともに「信頼するに足る人物かどうか」をしっかりと確かめ、お互いの合意があって初めて主従関係が成立したのである。

 直江家に婿入りした本多政重は以前、大谷吉継に仕え、その次ぎは宇喜多秀家の家臣になって二万石を与えられている。
関ヶ原合戦の際には宇喜多勢の侍大将格で奮戦しているから実に勇猛な武将だったことが分かる。
その後、福島正則の家臣になるのだが、まもなくそこを去って前田利長に召し抱えられて三万石を拝領している。
ドラマの冒頭で、本多政重のことを主家を次々に変える「得体の知れない人物」とのナレーションで紹介していたが、これは残念ながら少し時代考証の足りない見解であろう。
 本多政重は宇喜多家から二万石、前田家から三万石を拝領している。この時代は江戸時代と違って能力給なのだから有能な人物だったに違いない。
逸材の人であればなおさら、月日の流れや時代の変化に応じてその才能に磨きがかかり、さらに信頼するに足る主人を探し求めるようになるのであろうし、その結果として主家を次々に変えることになってしまうのである。有名な武将では島清興(通称は島左近)、藤堂高虎などがその好例だが、詳しく調べればきりがないほどに沢山あるはずである。

 直江兼続も政重のことを高く買っていたように思える。
 政重は本多正信の次男であるが、徳川家を出奔した後は秀吉の信任する大谷吉継の家臣となり、その次は秀吉の寵愛する宇喜多秀家に仕え、関ヶ原の合戦においては西軍の主力部隊の先鋒となって勇戦している。
どちらかといえば大坂方の人物であるし、有能な武将のように思えるし、徳川家の宿老である本多正信の息子であったりするので、主家の上杉の社稷をまっとうすべく策動していた兼続の目にとまったのであろう。
 1604年(慶長九年)の八月頃、兼続は政重(この頃まで正木左兵衛と称している。当時の武士は名前を変えることが多かったからややこしい)と兼続の娘である於松との婚儀を整え、政重は直江家の婿養子となって直江大和守勝吉と称した。
しかし翌年には於松が病死しているから、兼続の心痛はいかばかりであったろう。
当時の大名レベルの結婚は王朝時代の頃と違って恋愛もへちまもない。お見合いすらないのだ。
「家」と「家」とが結婚し、子孫を残すことだけを目的に結ばれるのである。
 恋愛に恵まれる機会すらなく、夫婦の情愛を知らず、政略の犠牲者となってこの世を去ってしまった娘を想う兼続の胸中は悲壮である。万感胸に迫る思いであったろう。

 その後、兼続は勝吉との養子縁組をそのまま継続し、1609年(慶長十四年)に弟の大国実頼の娘・阿虎を養女にして勝吉に嫁がせている。
弟の実頼は以前、兼続が政重を養子に迎える事に猛反対したのであるが受け入れてもらえず、憤懣おさまらずに強行手段に出て政重を迎えに来た兼続の家臣を斬殺して出奔している。
またこの年、本多正信が仲介役となって兼続の実子・景明が膳所藩主戸田氏鉄の娘を娶っている。この頃から勝吉は本多安房守政重と名乗るようになったようである。

 

 ところで、徳川家康は慶長八年二月に征夷大将軍となったが、それと前後して世子の徳川秀忠の娘である千姫と豊臣秀頼との婚儀を進めている。こちらも家同士の無味乾燥で味気ない結婚である。しかし二人とも幼少であったから飾り雛のように綺麗でかわいらしい出で立ちであったろう。

 家康はこの婚儀によって豊臣恩顧の武将たちの反感をやわらげ、淀殿の憤激を慰撫して煙に巻いてしまうつもりだったのかもしれないが、しかし翌年の慶長九年になると家康が上洛した際には大坂に赴いて秀頼に拝謁することもなく、まっすぐ江戸に戻ってしまっている。家康は上洛する度に大坂に足を運んで秀頼に謁していたが、天下の実力者たる覇者になってからはその態度を急変させている。

 さらに、翌翌年の慶長十年四月には世継ぎの秀忠に大軍勢(公称で十万とも云われる)を添えて上洛させているから、これは将軍職を徳川家が世襲することを公に表明したようなものなのだ。

 おまけにこの時、秀頼に対して上洛を促すようなことまでしでかしているから、豊臣系の諸大名である加藤清正、福島正則、浅野幸長などは疑心暗鬼に陥り、淀殿の憤激ぶりは察するに余りあるものがあったようである。

 家康はあまりにも強烈な拒絶反応に驚いて、慌てて六男の忠輝を大坂に派遣して秀頼の上洛の件はうやむやの内に取り止めになっている。

 
 秀吉が病没したのは慶長三年八月十八日だから七年余り、関ヶ原役からは五年も経過しているのだが、太閤秀吉の威光はまだまだ根強かったのだ。
 
 
 焦る家康を見て、あの世の石田三成が苦笑していたかもしれない。


 大坂冬の陣は、この年から約九年もの歳月を経過した後に勃発しているのである。


著者HP http://7daiyamonde.blog60.fc2.com/
メールアドレス hokenpuro@yahoo.co.jp 

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

【2009/11/05 14:08】 | 未分類
不如帰 ~戦国武将の幻影~


Ⅰ<覇王編>~逆賊 織田信長を討て!~  Ⅱ<争覇編>~織田家簒奪!秀吉の野望~

不如帰 戦国人物伝


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